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大阪地方裁判所 平成2年(ヨ)2135号 決定

申請人

山崎信明

被申請人

大阪海運株式会社

右代表者代表取締役

碇澤彦

右被申請人代理人弁護士

竹林節治

畑守人

中川克己

福島正

松下守男

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実および理由

第一申立て

一  申請の趣旨

1  申請人が被申請人の従業員たる地位を有することを仮に定める。

2  被申請人は、申請人に対し、即時金六万二一三九円を、平成二年八月以降本案判決確定まで毎月二五日限り一か月金一九万四一八三円の割合による金員を、いずれも仮に支払え。

3  申請費用は被申請人の負担とする。

二  申請の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当裁判所の判断

一  当事者間に争いない事実に疎明と審尋の全趣旨によって認められる事実を総合すると、まず次のとおりである。

1  被申請人は、大阪市大正内港における株式会社五社の定期貨物船事業およびこれに関連する事業を集約して行うために昭和五一年九月に設立された会社であって、大阪と西日本各港との間の船舶による貨物の内港運送事業を主たる事業として行っている。被申請人設立時に関連会社として沿岸荷役を行うことを目的とする大正埠頭株式会社(以下、大正埠頭という。)が設立され、荷役作業に従事する従業員は、もとの会社から大正埠頭に移籍された。

2  申請人は、昭和六二年二月一二日に被申請人に雇用され、第二営業部所属を命じられ、以後同部において勤務をつづけた。

3  被申請人は、平成元年六月一日、申請人を第三営業部に配置転換することを命じた。

申請人は、右配置転換命令にしたがってしばらく第三営業部で勤務したが、同年七月一四日、被申請人に対し、書面により、配置転換命令を承諾できない旨を申し出た。しかし同時に、申請人は、第三営業部における就労を拒否するものではなく、配置転換命令の効力は訴訟等の法的手段によって争う旨を申し出た。そして、申請人は、同年八月一六日、右命令の効力を争う趣旨の訴訟を大阪地方裁判所に提起したが、第三営業部での勤務はそのままつづけた。

4  ところが、平成二年一月二六日、申請人は、被申請人に対し、第三営業部における就労を拒否する旨を申し出た。これに対して被申請人は、翌二七日および三〇日の二回にわたり、第三営業部における就労をつづけるよう申請人に指示したが、申請人は、二九日から二月三日まで就労しなかった。

しかし、申請人は、右二月三日、被申請人に対し、被申請人の就労指示にしたがうのが筋道であり、二月五日から第三営業部で誠実に勤務を続行する旨などを記載した陳謝状を提出し、再び第三営業部で就労した。

被申請人は、申請人の就労を受け入れたが、二月六日、申請人が就労指示命令を無視して就労を拒否したことを理由として、修業規則に基づいて申請人を譴責の処分に付した。さらに、被申請人が申請人に始末書の提出を求めたところ、申請人は、二月二一日、被申請人に対し、前記訴訟において申請人が勝訴したときは撤回するとの留保を付記した始末書を提出した。

5  その後、申請人は、第三営業部での勤務をつづけたが、平成二年七月一一日に被申請人に対して再び書面により第三営業部での就労拒否の申入れをし、翌一二日に被申請人が就労指示をしたのにも応じず、一二日以降就労しなかった。

6  平成二年七月二一日、被申請人は、申請人に対し、申請人の右就労拒否は、就業規則五八条二号所定の諭旨解雇または懲戒解雇事由である「職務の指示・命令を無視し、……社内の秩序を著しく乱した」場合に当たり、かつ同条三号所定の同解雇事由である「譴責……に処せられたにも拘らず悔俊の意志が認められない」場合に当たるものであり、さらに同規則四九条二号所定の即時解雇事由である「無断欠勤七日以上」にも該当する旨の理由により、同規則四九条に基づいて、申請人に解雇予告手当を送金して翌二二日付で申請人を即時解雇(普通解雇)する旨通告した(なお、就業規則四九条六号は懲戒解雇事由があるときも即時解雇ができる旨を定めている。)。申請人は、解雇は無効であると争い、送金された解雇予告手当は賃金に充当するとの留保付きで受領した。

二  被申請人の申請人に対する解雇は、申請人が被申請人の配転命令にしたがわずに就労を拒否していることを実質的な理由とするものであることが、右事実から明らかである。

申請人は、解雇の前提というべき配転命令は、事務的業務に従事する従業員に限定して採用された申請人を異職種の第三営業部の沿岸現場作業要員に配置換えする内容のものであること、申請人を配転の対象とした人選が合理性を欠くこと、第三営業部における業務が港湾運送事業法の規定に違反しており、配転命令は強行法規違反の業務を申請人に強いることになることを理由として、配転命令は無効である旨主張する。

疎明と審尋の全趣旨によると、次のとおり認めらる。

1  被申請人は、職業安定所を通じて従業員一名を募集したが、その募集する従業員の従事する業務の職種は「荷受現業職業」であり、また仕事の内容は「内港定期船貨物(一般鋼材、雑貨等)の荷受検収並びに発送及び到着貨物の配送等にともなう軽作業及び管理事務処理」であって、被申請人は職業安定所に提出した求人公開カードに右職種および仕事の内容を明記した。被申請人は、右求人公開カードをみて募集に応じた申請人を採用し、右募集内容どおりの荷受検収等の軽作業および管理事務処理の業務を行う第二営業部に申請人を配属した。被申請人は、右採用に当たって、申請人に対し、申請人の従事する業務を第二営業部で行う右業務のうち管理事務処理の業務に限定する趣旨の約束ないし指示をしてはいない。もっとも、被申請人は、右従業員募集をした当時に、被申請人の重要な顧客である中鋼株式会社(以下、中鋼という。)の商品(薄板)を荷受けし、被申請人の上屋で保管し、中鋼の出荷指示によって各地の中鋼の取引先にその商品の運送または運送取次をする「中鋼業務」と呼ばれる業務(いわば中鋼の配送センター的業務)を新たに第二営業部で行うことになり、その中鋼業務の担当者として申請人を第二営業部に配属したものであるところ、その当時の中鋼業務は管理事務に属するものがかなりあった。しかし、中鋼業務は管理事務業務に限られるものではなく、第二営業部でのその他の業務と同様に、貨物船の綱取り、荷受時の荷物のチェック、荷物に発送目的地別に色分けした荷札を付けるマーキング作業、荷物に防水シートを掛ける作業、沿岸現場作業に従事する大正埠頭従業員に対する指示などの管理事務業務には属しない作業もかなりあった。そして、昭和六二年五月に被申請人にコンピューターが導入され、それまで電話で顧客から入出荷の指示連絡をうけてそれを被申請人内部の事務処理に用いる伝票に手書きで記入していた作業等がコンピューターで自動的に行われるようになった結果、中鋼業務担当者である申請人の作業は、荷物のチェック、マーキング作業、大正埠頭作業員への指示等の管理事務以外の作業が主なものとなった。

2  被申請人の就業規則には、被申請人の業務上の必要によって従業員の配置転換を行うことができる旨の定めがあり、申請人も、採用時に交付を受けた就業規則をみて、将来配置転換されることがありうることは承知していた。

3  第二営業部と第三営業部における業務は、いずれも右の荷物のチェック、マーキング作業、大正埠頭作業員への指示等の作業が主なものであって、その取り扱う航路が区別されているため、顧客および積荷に違いがあって作業内容に若干の差があるものの、質的な差はない。

4  ところで、被申請人と中鋼との取引量が激減し(平成元年三月ごろ以降に取扱量が申請人の採用時の五分の一程度まで減少した。)、かつ前記のコンピューターの導入に伴って作業量が減少したことによって、申請人が第二営業部で担当していた中鋼業務は、著しく減り、それに要する作業時間もきわめて短くなり、中鋼業務は、いずれもそれ以外の業務を兼ねている係長と女子従業員一名だけで十分処理することができる程度の量となり、専従的ないしこれに近い状態で中鋼業務に従事する従業員を配置する必要はなくなった。一方、第三営業部においては、業務量が多く、人手不足が深刻になっており、また所属従業員の高齢化がすすんでいたため、若い従業員を補充したいと希望していた。被申請人は、第三営業部の求めに応じて、基本的には同種の業務を行っている第二営業部においてその担当している中鋼業務が著しく減った申請人を第三営業部に配置転換することとした。申請人を配転の対象としたこの人選を不相当とするような事情は、とくにみあたらない。また、第二営業部と第三営業部の各作業現場は、せいぜい数百メートル離れている程度であって、申請人の通勤時間にもほとんど影響はない。賃金の支給基準も変わりはない。その他、申請人が第三営業部で就労することによって労働条件が不利益になることはなかった。

5  (申請人は、申請人の配転先である第三営業部において申請人が従事すべきものとされた業務は、港湾運送事業法所定の事業免許を有しない被申請人が行うことのできない港湾荷役業務に属するものであって、同法の規定に違反する旨をいうのであるが、)前記のとおり第二営業部と第三営業部の業務は基本的に同種のものであって、第三営業部においてとくに、港湾運送事業法違反の業務が行われているといったことはない。被申請人は内航運送業者であり、その顧客のためにする荷受等の業務に属する作業を被申請人の従業員が沿岸で行うことは同法の規定に触れるものではなく、また、被申請人は荷役事業の免許を有しておらず、荷役業務はすべて大正埠頭に委託しているが、被申請人の従業員が委託者の(補助者としての)地位に基づいて、沿岸で荷役作業に従事する大正埠頭の従業員に指示、指図の作業をすることも、同法の規定に触れるものではない。もっとも、被申請人の従業員が大正埠頭の従業員に対する指示等の作業の便宜上、本来は大正埠頭の荷役作業に使用するフォークリフトを被申請人の従業員も補充的に利用することがあり、被申請人の従業員がフォークリフトを利用してこのような作業を行った場合に、外見上荷役作業とまぎらわしくみえることがまったくないわけではない(申請人は、被申請人の従業員がフォークリフトを利用してする右のような作業は大正埠頭の従業員でなければすることのできない荷役作業と異ならないと主張して、その業務の違法性を強調する。)。しかし、まぎらわしいからといって、被申請人の従業員のしている作業が実質的にも右法規違反の荷役作業に当たるものとただちにいえるものではなく、また、フォークリフトは大正埠頭の従業員が利用できる数しかなく、通常は大正埠頭の従業員がそれを利用して作業しているので、被申請人の従業員がフォークリフトを利用して荷役業務とまぎらわしい作業をするといったこと自体、そうしばしば起こることではない。そして、被申請人は、申請人に配転を命じたさい、またはその後に、申請人に対してフォークリフトに乗務して作業することを命じたり、指示したりしたことはない。要するに、被申請人が申請人に対して申請人のいう強行法規違反の業務に従事することを強いたり、命じたりしたことはない。

6  申請人は、配転を命じられてから約一か月半の間は、とくに不服を申し出ることもなく第三営業部において勤務し、前記のとおり平成元年七月一四日になって初めて書面で配転を承諾できない旨申し出たが、その理由は、配転命令が合理性を欠くことを抽象的に指摘しただけであった。

以上のとおり認められる。

これによれば、申請人が第二営業部において従事すべきものとされ、かつ実際に従事した業務は、事務的職種のものに限定されるものではなく、マーキング作業のような荷受作業や沿岸現場における大正埠頭作業員に対する指示の作業等を含んでいたものであるところ、被申請人は、申請人の担当する中鋼業務の業務量が激減し、一方で第三営業部で要員補充を必要としたことから、申請人に対して、第二営業部と基本的に同一の職種の業務を行っており、かつ労働条件も同じような第三営業部への配転を命じたものであるから、右配転命令は、被申請人の業務上の必要に基づくものであって、人選の合理性に欠けることもなく、また、その配転の結果が申請人に通常甘受すべき程度を超えた損害を被らせるものでもないといえる。そしてさらに、右事実によれば、右配転は、申請人に申請人のいう強行法規違反の業務を強いるようなものではないといえる。しかしさらに、申請人は、右配転命令は被申請人の不当な動機、目的に基づく権利濫用の人事権の行使である旨主張するので、次の三において右配転命令の動機、目的の不当性の点について検討する。

三  申請人は、〈1〉申請人が被申請人の社内で行われていた野球賭博をやめさせるよう被申請人に申し出たこと、〈2〉申請人が被申請人の望んでいたフォークリフトの運転免許取得をせず、またそれに乗務して沿岸現場作業をすることに消極的であったこと、〈3〉申請人が被申請人の社外の労働組合幹部と接触し、社内に労働組合を結成しようとしたこと、などの点において被申請人が申請人を嫌悪し、報復的に申請人に配転を命じたものであるから、配転命令解雇は、その動機、目的が不当であって権利濫用というべきものであり、無効である旨を主張する。

1  まず、〈1〉の点について、疎明と審尋の全趣旨によると、昭和六二年八月二五日ごろ、申請人は、その当時被申請人の社内でかなりひろく行われていた野球賭博ないし賭博まがいの行為をやめさせるよう被申請人代表者に申し出たが、これをうけた被申請人代表者は、ただちに社内全体に野球賭博に当たるようなことはやめるよう指示し、それ以後社内で野球賭博ないし類似の行為が行われることはまずなくなり、申請人も申請人の申出に被申請人が迅速に対応したことを納得した旨の書面を被申請人代表者に送付したこと、野球賭博の問題はこれでおさまり、その後この問題に関して申請人と被申請人との間でなんらのやりとりもなされていないこと、が認められる。このことに、申請人が右申出をしてから配転命令がされるまで二年近くも経過していることをあわせてみると、野球賭博の問題が被申請人の申請人に対する配転命令の動機、原因になったとは考えられないというべきである。

2  〈2〉の点について、疎明と審尋の全趣旨によると、次のとおり認められる。

申請人は、昭和六三年冬ごろから平成元年初めごろの間に、申請人の相談相手であった全港湾労働組合大正埠頭分会長を通じて、被申請人に対し、フォークリフトに乗務して作業することが便利である場合があるので、その運転免許を取得したいと申し出た。被申請人は、大正埠頭作業員に対する指示の作業上被申請人の従業員もフォークリフトの運転に通じていることが都合がよく、従来から免許取得を希望する従業員に対して免許取得のための費用を負担するなどの援助を与えてきたので、申請人の申出をよろこんでうけた。ところが、申請人は、フォークリフトの免許取得をやめてしまい、被申請人に対しては格別の理由を説明せず、免許取得をしないことだけを告げた。被申請人代表者らは、申請人はよく気が変わるといって怒ったが、それにとどまり、申請人が免許を取得しなかったことをその後に問題視したことはない。被申請人においては、例外的に特定の顧客に対する関係でフォークリフト乗務を必要とする従業員二名についてはその免許を有していることを当然必要としたが、それ以外の者については、フォークリフトの運転に通じていれば便利であるというにすぎず、それに乗務しなければ作業ができないというものではなく、むしろ前記のように大正埠頭の従業員が乗務していないときに利用することができるという程度のものであるため、業務遂行上免許取得は必要ではなく、申請人も同様であって、被申請人が申請人に対して明示的にも黙示的にも免許取得を求めるようなことをしたことはない。右の申請人の申出も申請人がまったく自主的にしたものであって、被申請人が働きかけたものではない。被申請人代表者らが怒ったというのも、申請人が自発的に免許取得を申し出てきながら格別の理由も告げずにやめてしまったことに対して不快感を示したというものにすぎない。それ以上に、申請人がフォークリフトの免許取得をしなかったことや、それに乗務することに消極的であったことを、被申請人が問題にした形跡はない。

以上のとおり認められる。これによると、申請人がフォークリフトの免許を取得しなかったこと、その乗務に消極的であったことを、被申請人が嫌悪して、申請人に配転を命じたというような事実を認めることはできないということができる。

3  次に〈3〉の点についてみると、疎明と審尋の全趣旨によれば、申請人は第二営業部にいた当時に被申請人の社内に全日本港湾労働組合の分会を結成しようとしたことがあり、被申請人は申請人がそのような行動をしていることを申請人から連絡をうけるなどして承知していたが、これに干渉するようなことは一切していないこと、被申請人においては、代表者らが、従来から、被申請人と密接な関係にある大正埠頭の従業員が結成している右労組の分会役員、一般組合員と日常接触しており、その関係も良好であって、被申請人の社内に大正埠頭におけるのと同様の分会が結成されることを嫌うような事情はなかったことが認められる。ほかに、被申請人が申請人の分会結成の計画を嫌悪していたことをうかがわせる疎明はなく、申請人が分会を結成しようとしたことは、被申請人の申請人に対する配転命令の動機、原因にはなっていないといえる。

以上のとおりであって、被申請人の申請人に対する配転命令について、申請人のいう動機、目的の不当性は認められず、これを権利濫用で無効とすることはできない。

四  以上の一ないし三の事情を総合すると、被申請人の申請人に対する配転命令は有効なものであって、申請人は配転命令にしたがって第三営業部で就労する義務を負うといわなければならない。しかし、申請人は、前記のとおり、配転命令の効力は訴訟で争うが第三営業部での就労自体は拒否しないことを明言し、譴責処分をうけたさいにも同様の態度を明らかにしながら、二回にわたって就労を拒否したものであり、二回目の就労拒否だけみても、被申請人の就労指示の命令にまったく応じないで、被申請人が解雇を通告するまで七日以上にわたって就労拒否を継続したものである。このような申請人の就労拒否の行為は、前記一6掲記の就業規則五八条二、三号所定の懲戒解雇事由(同規則四九条六号により即時解雇事由ともなる。)に該当し、また同規則四九条二号所定の即時解雇事由である無断欠勤七日以上に相当する場合に当たるといえる。これらをあわせて、即時解雇の要件は満たされているといえる。

申請人は、被申請人は申請人の前記三〈1〉、〈2〉、〈3〉の主張のとおりの(配転命令におけるのと同様の)不当な動機、目的のもとに申請人を解雇したものであるから、その解雇は権利濫用で無効である旨主張する。しかし、右の申請人の主張にそう事実が認められないことは右三1、2、3でみたとおりであり、なお疎明を総合しても、被申請人が申請人のいうような不当な動機、目的で申請人を解雇したとの事実を認めることはできない。

さらに、疎明によると、被申請人は、平成二年六月一日から、第三営業部における申請人の担当をそれまでの三号クレーンから二号クレーンに変更し、申請人はそれ以後同クレーンの前にある荷受小屋を拠点として勤務することになったことが認められるが、申請人は、この荷受小屋は冷暖房設備もなく、執務環境が極めて劣悪であり、被申請人が申請人を他から差別し、冷遇してこのような場所に閉じ込めておいて、この差別的取扱いに耐えかねた申請人を解雇したのは、権利濫用である旨主張する。しかし、被申請人は、申請人が第三営業部での作業にも慣れてきたため、それまで現場事務所の間近にあって上司の指導上も便利であった三号クレーンの担当から、同クレーンから各数十メートル離れた場所にある二号および五号クレーンのうち二号クレーンの担当に変更したものであること、三機のクレーンの前にはそれぞれ荷受小屋があるが、その設備は同じようなものであり、いずれも冷暖房設備はないが、これは、各担当者とも小屋外で作業するのが常態であって、従来各小屋内にそのような設備を設置する必要にそれほど迫られていたわけではないこと、また各クレーンの担当者は休憩等の場合には現場事務所を利用することができ、申請人についても現場事務所の利用が妨げられたことはないことが認められる。これによれば、荷受小屋の設備を改善するのが望ましいとしても、それはすべての荷受小屋についていえることであって、被申請人が申請人を二号クレーン担当としたこと自体は、申請人のいうような差別的取扱いに当たるものではないということができ、差別的取扱いがされたことを前提とする申請人の権利濫用の主張は理由がない。

その他、疎明を総合しても、被申請人の申請人に対する解雇を権利濫用であると認めることはできない。

五  以上のとおり、被申請人の申請人に対する即時解雇(普通解雇)は就業規則に定める解雇事由が存在し、かつその解雇を権利濫用で無効とすることもできないから、本件については被保全権利が認められないというほかない。また、疎明に代えて保証を立てさせることも相当ではない。

右のとおりであって、その余の点について判断するまでもなく、本件申請は理由がないので却下することとし、申請費用の負担について民訴法八九条にしたがい、主文のとおり決定する。

(裁判官 岨野悌介)

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